アピスと小さな竜娘サニア


むじゃきなお世話係せわがかり

砂漠で恐ろしいドラゴン戦士に捕まったアピスは、見知らぬ洞窟のような場所で目覚めました

『ここはどこなのかしら?砂漠じゃなさそうだけど…』

眠そうに目をこすりながら周囲を見渡すアピスちゃん。辺りは炎がチラチラと燃え、赤くて透明の不思議な石がたくさんありました。強い好奇心に駆られた彼女は立ち上がって洞窟の外へ出ると、そこには真っ赤なマグマの川が流れていました

『そこら中燃えてる…!思い出したわ
地上世界紀行の第Ⅳ巻に描かれていたドラゴンの火山!本当にあったなんて…』

そう、ここは炎を操る「火竜の一族」が住む火山の国だったのです

ドラゴンたちの自信の表れなのかアピスの身体には拘束具の類は何もつけられておらず、そのため自由に動き回る事ができましたが、火山の中は溶岩だらけな上にドラゴンがうろついており、8歳の少女が一人で歩き回るのは危なそうです…

『そうだ!きっとみんなも私と同じように捕まってるに違いないわ
はやく合流しなくちゃ…きゃっ!?』

突然うしろからガサッと物音がきこえて、アピスは振り返ると物陰からドラゴンのツノのようなものがはみ出ているのが見えました。「ドラゴンがいる」と知った彼女に緊張が走りますが……


そこにいたのは頭にリボンをつけた、まだ小さいドラゴンの女の子でした

『(あぁよかった…まだ子供だし危険はなさそう)』

相手が幼いと分かったアピスは安心し、石のうしろに半分隠れてじっとこちらを見つめてくるその子に優しい声で
『大丈夫よ。こっちへきてお話しましょ』と言ってあげました。するとその子は心を開いたのか、隠れるのをやめて出てきました

『めがさめてよかったー。ここはね、サニアのかくれ家なの♪
あなたがずっと起きないからサニアはとおくへお水くみにいってたんだよ!』

小さなドラゴンの少女サニアはアピスのためにわざわざ遠くの水源地までひとっ走りして、新鮮な飲み水を汲んできてくれたのです。アピスは『ありがとう!丁度喉がカラカラだったの』と有難くお水をいただきました

『でもさ、こんな事していいの?あなただってドラゴンでしょ
私を助けたのが知れたら、仲間のドラゴンたちに酷い目にあわされるんじゃ…』

心配するアピスにサニアは『そんなことないもん!』と答えました

『あのね、サニアはね「おせわがかり」なの
ソニアおねえちゃんがね、アピスが逃げないようにここで見はれってさ!』

サニアの素性を知って硬直するアピスちゃん

彼女は村を滅ぼしてアピスを誘拐してきた冷酷な女戦士ソニアの妹だったのです
『ソニアおねえちゃんは強くてかっこいいの♪』と無邪気に笑っており、自分の姉がした事をまるで分かってなさそうでした

『(どうしようこの子、きっと何も知らないままこき使われてるんだわ…
本当の事を話すべきなのかしら……)』

村を焼いた上に自分を無理やり連れてきたソニアを「自慢の姉」だと信じるサニア
アピスは悩みます。もし真実を言えば、この小さな子の心を深く傷つけてしまう事を彼女は知っていました

本当の事を言いたくても言えず、アピスは歯がゆい思いをします

『そうだ♪アピスにいいものあげるー』

サニアが出したのは、あの赤くて透明の不思議な石と同じものでした

『あのね、この石はね「にっちょー石」っていうんだよ!火山の外だとすっごくめずらしいんだってさ!
サニアはこの石大好き!すきとおってて、サニアのツノと色がいっしょだしっ♪
いっぱいもってるからアピスにもいっこあげる!』

サニアは『はいっ♪』とアピスの手に日長石を渡しました
石は高熱を帯びていて触ると焼けるように熱く、アピスは『あついっ!』とうさぎのように跳ね回りました

『も~、やけどする所だったじゃない!
イタズラしないで!』

キャッキャと楽しそうに笑い転げるサニアちゃんを見てプンプン怒りだすアピスちゃん
しかし、日長石はとっても気に入ったようでした

『ねぇ、それあげたらサニアと友達になってくれる?
遊ぶ相手いなくてつまんなかったの』

アピスは『いいわよ』と言うとサニアは嬉しくて大はしゃぎしました

『(ウフフ…かわいい♪
ドラゴンだらけの火山で一人でいるより、この子が一緒にいてくれた方が安心できるしね)』

小さい子のお世話には慣れているし、純粋無垢なサニアちゃんと一緒にいてあげるのもいいかなとアピスは思いました。
こうしてすっかり意気投合して友達になった二人。

しかし……

背後に現れたソニアは、鋭い目つきで二人を見下ろしました

『その娘が起きたらすぐ私の所へ知らせにこいと言ったはずだ
だがおまえはのんきにその娘と遊んでいる…私の命令に背いた罰を与える必要がありそうだねぇ』

ソニアは妹が自分の言いつけを守らなかった事に腹を立てているようです

『お、ねえ…ちゃ……』

サニアは体中滝のように汗をかいて、恐怖のせいで立ったまま動けません
そんな妹を「お仕置き」だと言わんばかりにソニアは掴み上げ、その身体を地面に力いっぱい叩きつけました

地面に強く叩きつけられて『やあっ!!』と悲痛な声を上げるサニアちゃん

『ちょっと!なんてことするの!?』

倒れ込んだサニアに駆け寄ったアピスは、そのあまりにも痛々しい姿に言葉を失います…

地面に打ちつけられたサニアは腕を骨折し、激痛に苛まれていました…

『心配いらん。おまえは竜の女王の血を引く者
生まれながらにして備わった再生力をもってすれば、その程度の傷は数日あれば癒える。
その間、身悶える様な苦痛に耐え続けて猛省するがいい…

痛くて呻き声をあげている妹に、まるで何も感じてないかのように冷たく言い放ったソニア
怒ったアピスは立ち上がって彼女を睨みつけました

『あなたって最低…!いくら治るからって、ものすごく痛い事に変わりないじゃない!
この子はあなたを慕っていたのよ?自分の妹に対して、どうしてこんな仕打ちができるワケ!?』

温厚な性格のアピスもソニアに対しては本気で怒っていました

『私の妹の心配するとは余裕だな。おまえ自身も我らが神に捧げる大事な生贄だとも知らずにねぇ
その時が来るまで、せいぜい怯えて過ごすがいい…』

ソニアはそう言い終えると「炎を纏った腕」を振り回し、激しい熱風を起こして周囲を包み込みました
熱風が止んだ時、ソニアは倒れていたサニアとともにいなくなっていました

『私が…生贄ですって?』

残されたアピスは、ソニアが去り際に放った不吉な言葉に胸騒ぎを感じずにはいられませんでした…

件のコメント

匿名

20年ほど前に星の塔にてWWAを遊ばせていただいていたものです。
ここまで創作活動を続けて好きでいられるのは素晴らしい才能だと思います。

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