くち
ソニアとの闘いに敗れたオックスとリトアは竜の呪いで灰化した姿となり、
二人の身体はサヤカの回復魔法さえも受けつけず、意識不明のまま生死の境をさまよっておりました
『ダメだ…!クスリも、食べ物もぜんぶとられてる』
どこかに解呪の薬がないかアルフは一生懸命探しますが、ドラゴンに物資を何もかも持っていかれたのかどの家もすっからかんでした
アピスが誘拐された上にオックス達まで危険な状況にあると知り、
サヤカちゃんはひどく動揺して『どうしたらいいの…』と目から涙がぽろりぽろりこぼれ落ちました
『あのさ!村のはずれに、ボクのいとこの兄ちゃんが住んでんだ
あそこだったらクスリがあるかも…』
アルフによると、この近くに「サンドラ」という名前の少年が住んでいる家があるそうです
それを聞いたサヤカはオックスたちをそこへ運ぶ事にしました
『オックスにいちゃんは、あたしが助けるっ…!』
灰化したオックスの巨体を小さな身体で一生懸命運んでいくサヤカちゃん…
熱い砂の上を足で踏みしめ、汗びっしょりになりながら、何とかサンドラの家までオックスとリトアを連れていく事ができました
家に着くとすぐポンチョを着た砂族の少年サンドラがこちらに気づいてやってきました
『サンドラ兄ちゃん!無事だったんだね!』
『あれ~、アルフじゃないですか!どうしたんですか急に』
『あれ、そちらは旅の方ですかぁ?
ぼくはサンドラ・アルマチェロと申します。よろしくです~!』
サンドラ君はぺこりと頭を下げ、最初はの~んびりした口調でサヤカちゃんを出迎えましたが、
アルフから村が襲われたのを聞くと驚いてショックを受けたようでした
『えぇ~っ!ド…ドラゴンが村を襲ったの!?
ずっと畑仕事をしていたから、ぜんぜん気づきませんでした…』
村から離れた場所にたった一人で住んでいる彼は、ドラゴンの襲撃に全く気づかなかったそうです
『そうさ。ソニアっていうドラゴンの怖い女の人にみんなさらわれちゃったのさ…!
じいちゃんも村の人も、アピスお姉ちゃんも、みんなさ…!』
大好きな人たちがみんないなくなった事を悲しそうに告げるアルフ君…
しかし、サンドラ君は首をかしげながら『あのぉ~。ロルフさんだったら家にいますけど?』と言い、アルフ君はきょとんとしました
『さ!とにかく家の中でお茶でもしましょう
こんな時、まず冷静にならないと!旅の方もどうぞ上がって下さい!』
マイペースなサンドラ君はそう言い、サヤカちゃんと灰化した二人を快く家の中に入れてくれました
『じいちゃん!!』
家に入るとアルフの祖父ロルフ老人が毛布に包まれて寝込んでいるのを見つけ、
アルフ君は嬉しそうに走って近づきました
『ロルフさんは、ぼくに人形を縫ってもらいたくてたずねてきたんです
孫が大切にしている人形の腕が折れちゃったから、何とか修理してくれですって
そしたらそのまま倒れて寝込んじゃって…きっと具合が悪いのに、相当ムリをしてたんだと思いますよ』
サンドラはそう言って一体の人形を取り出しました
人形は赤いずきんをかぶった小さなドラゴンの女の子の姿をしていました
『サニアがじいちゃんを、護ってくれたんだ……』
アルフはその人形「サニア」をぎゅっと抱きしめました
サニアは以前アルフと一緒に遊んでいたドラゴンの子供で、二人はとっても仲の良い友達でした
しかしある日、大人のドラゴンがやってきてサニアを無理やり故郷の火山へ連れて帰り、それからは二度と会えなくなったそうです。
『この人形は、ボクが寂しくないようにサニアが置いていったものなんだ
会えなくてもずっと友達だよって…ボクの一番の宝物なのさ』
アルフ君の話を聞いたサヤカは切なくなり、涙が止まらなくなりました
そのとき…
彼女は自分の中に何か不思議な力が溢れるのを感じました
『今ならあたし…治せるかも…!』
サヤカはゆっくり歩きだし、灰化したオックスとリトアの二人に優しく手をかざしました
サヤカの手のひらが暖かい光に包まれると、それに照らされた二人の呪いがみるみる解けてゆきました
『あたし…あたし…!
前より、もっと癒せるようになってる!』
癒しの魔法がパワーアップして解呪の効果も加わった事にびっくりするサヤカちゃん
先ほどアルフ君の話を聞いたことで彼女の「慈愛の心」が強まり、回復魔法の性能が大きく向上したのでした
サヤカはオックスとリトアの呪いを解いた後、続いてロルフ老人にも魔法をかけてみましたが、
今の彼女の力でも病気を治す事はできませんでした
『サヤカお姉ちゃん、しょうがないよ…
じいちゃんは病気なんだ。本当は、命の水じゃないと治せないんだからさ…』
ぺたんと床に座り込んだサヤカちゃんをアルフ君は慰めますが、彼女はうつむいたまま悲しそうに言いました
『あたしが治すって言ったのにさ…約束、守れなかった…』
アルフ君はふと、泣いているサヤカちゃんの足元を見ました
裸足でスニーカーを履いて暑い砂漠を歩き続けたおかげで、サヤカちゃんの足の裏は砂埃とマメだらけになっていました…
『(サヤカお姉ちゃん…足がこんなになるまで歩いてたんだ)』
サヤカちゃんは自分の足も痛いのにぐっと我慢し、オックスやリトア、ロルフ老人に回復魔法を使っていたのです
それを知ったアルフ君は胸をうたれ、泣きじゃくる彼女にお礼を言いました
『お姉ちゃん、ありがとう…大好き…』
アルフ君は心優しいサヤカを自分の「姉」のように感じ始め、すっかり彼女に懐いたのでした
その頃…
自分の「姉」に思いっきり腕を折られたサニアちゃん。
いっぱい痛い思いをしたばかりなのに、自分で怪我を早く治そうとミルクをがぶ飲みしておなかを壊していました…
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